ホリエモン、自民党から立候補――この流れが変わったのは18日昼、首相官邸の協議からだった。
自民党の山崎拓前副総裁は小泉首相に言った。
「世間には堀江氏のことを悪く思っている人もいる。自民党から出さない方がいい」
そばをすすりながら首相は黙って聞いていた。
ライブドアの堀江貴文社長の擁立を持ち込んだのは、武部勤幹事長ら党執行部だった。最初の案は「自民党公認 福岡1区 比例重複」。民主党の前職議員と戦う。堀江氏の希望に沿った案だ。
山崎氏は、選挙の仕切り役の二階俊博総務局長にも電話で、公認を見送るよう訴えた。
堀江氏は名を売りたいだけではないのか。あれほど敵対的買収批判の声をあげた自民党が公認候補に担げば「無節操だ」と有権者からそっぽを向かれないか。
「やりすぎや。彼はM&A(企業合併・買収)の男やから、自民党がM&Aされる」。山崎氏はそう漏らした。
公認を与えるなら社長は辞任。選挙区は福岡1区でなく亀井静香元政調会長の広島6区……。首相官邸サイドから党へ厳しい注文が続いた。
そして、首相が出した裁断は「無所属」で「亀井氏の対立候補」。亀井氏を倒せればそれでよし、仮に負けてもメディアが大々的に取り上げ比例区で自民党と書く有権者を増やすはずだ……。したたかな判断だった。
19日昼、首相は党本部で会った堀江氏に笑顔で右手を差し出した。
「君のような若者が政治に入ってくるのはすばらしいよ。堀江君にエールをおくろう」
一方の堀江氏。プロ野球参入、ニッポン放送買収と騒ぎを起こすたび、ライブドアのポータル(玄関)サイトのアクセス数が急増し、株価も上がった。同社幹部は言う。「これでアクセス数増加は間違いない。社長は最近『タレント業』がメーンなので業務に支障はない」。したたかさでは負けていなかった。
◇ ◇
堀江氏が2大政党を両てんびんにかけるような動きをした時もあった。
15日夜。武部幹事長と二階総務局長は、六本木ヒルズのライブドア事務所に出向いた。「福岡1区 公認候補」の案を切り出し、堀江氏の反応に脈ありと感じた。
だがその翌16日夜。堀江氏は都内で1時間半、以前から知り合いの民主党の岡田代表と話し込む。
どの選挙区で擁立するか、岡田氏は腹案も用意していたが、まずは政策だと、党のマニフェスト(政権公約)の中身を説明した。しかし、堀江氏が「郵政民営化法案に賛成です」と言ったのを聞き、出馬要請するのをやめた。
彼は、自民と民主のどちらが政権をとるか、見極めようとしているんだろう……。そう感じた岡田氏は、翌17日の記者会見で「発想がユニークで買っているところもあるが、何でもいいから来てくださいというわけには参りません」と言い切った。
残ったのは自民党。公認候補選びの責任者は幹事長と総務局長だ。堀江氏は19日、党本部で、武部、二階両氏に「市町村をくまなく回ります」と言った。
閣僚経験1回で、首相から幹事長に抜擢(ばってき)された武部氏。小沢一郎氏らと党を離れたが、小泉首相のもとで自民党に復党した二階氏。2人は解散直後から自分の選挙区にも帰れず、党本部にこもりっきり。反対派前議員の恨みを買う候補者探しを続ける日々に、愚痴もこぼれる。
「私は出戻り。郵政審議で特別委員長もやらされ、こんな選挙もやらされた。懲罰、と思うしかない」。深夜の党本部幹事長室で、二階氏がつぶやくと、武部氏がかえした。「おれは選挙が終わったら打ち首だよ」
だが、どういう形でどこの選挙区で出すか、というポイントの部分を裁断したのは結局、小泉官邸だった。