●「自公250いける」でも引き締め
24日朝。二階俊博自民党総務局長は、衆院第2議員会館の自室で、受話器を握って、30代の新顔の立候補予定者を相手にまくしたてた。
「おお、やれるやれる。惜敗率なんて心配しなくて大丈夫だ。調査結果は意外なほどいいぞ」
自民党が独自に20、21日に行った世論調査の結果は、それくらい「いい数字」だった。24日夜、首相の側近は、慎重に数字を挙げながら、興奮を隠さなかった。
「まあ裏切り者を切り捨てる選挙だから、(解散時より)30は減りますよ。でも(自公で)250台はいくね。最悪でも240台だ」
「極秘」のはずの情報は、あっという間に選挙の現場にも流れた。神奈川県の前衆院議員は24日、「全選挙区で勝っている。驚いた」と語った。03年総選挙は県内全体で、与党と民主党との勝負は「10勝8敗」だったのだから無理もない。
ただ、首相官邸も党執行部も浮かれているわけではない。
特に、この先、選挙戦の空気を激変させかねないトゲは早めに抜いておかないと……。その意識は与党が26日に正式発表する「連立与党重点政策」に表れた。
「サラリーマン増税は行わない」。与謝野馨自民党政調会長は原案の文章をみて「これじゃあ弱すぎる」と朱を入れた。「野党が選挙戦略として意図的に喧伝(けんでん)している『サラリーマン増税』は行わないことを明確に宣言する」。途中、与謝野氏は「悪意を持って喧伝」と書き込もうとしたが、「悪意と喧伝は意味が同じです」との周囲の説得で思いとどまった。
与謝野氏ら自民党幹部は「負担増と税」にトラウマがある。98年の参院選。消費税率引き上げなど、9兆円の国民負担を先行させた当時の橋本首相は、選挙戦中に「恒久減税」を巡って発言が大きくぶれ、惨敗―内閣退陣のもとをつくった。
7月の都議選でも増税を明確に否定しなかった自民党候補者が落選した。党幹部は「増税が原因で5議席を失った」と総括する。
「党首討論とかで首相が失敗しないようにしないと。特に注意しないといけないのは税に関する発言。有権者は敏感に反応するから」。首相の側近は24日、自分に言い聞かせるように言った。
●民主「150」に衝撃、年金に走る
一方、民主党には今週初め、衝撃の調査結果が民間調査会社から届いた。
「明日選挙があったら、150議席ぐらいしか取れない、ということなのか」。党選対の幹部たちはうめいた。接戦とみられる選挙区を対象に、世論調査を行った結果、「単独政権」には程遠い情勢が推計されていた。
中でも、民主党が強かったはずの都市部の不振ぶりが目立った。首都圏で自民党に15ポイント以上の差をつけられた選挙区がいくつもあった。
選対関係者は「風を起こす手だてなんてない。ただじっと、小泉さんの失言を待つという状態だ」と漏らした。
極秘扱いの世論調査結果は、24日の党総合選対本部役員会議で報告された。
岡田代表は言った。
「いや、潮目は止まった。踊り場だ。従来通り単独政権を目指すということでいいですね」
開き直りだったかもしれない。だが、岡田氏は昨年の参院選を思い浮かべていた。小泉首相の再訪朝。安倍晋三幹事長(当時)の人気。一方で菅直人氏の年金未納が発覚、代表辞任後のどたばたで岡田氏が「火中の栗」を拾った形での就任……。それでも躍進した。
気を取り直したように選対幹部も「解散直後の前回調査より、わずかに盛り返している。03年総選挙の公示前も同じ状態だった」と語った。
岡田氏ら幹部は善後策を練った。
「無党派層の取り込みだ」「調査会社は、年金・子育てをやった方がいいと言っている」「主張は明確にすべきだ」
会議後、岡田氏は東京都中野区のJR中野駅前でマイクを握った。
「今の年金制度に不満や不安があって、大きく変える必要があると思うなら、ぜひ民主党に任せてほしい」。17分の演説のうち10分近くを年金と子育てにあてた。
同時に「消費税を3%上げなければいけない」「配偶者控除や扶養控除を廃止する」と国民に負担を強いる言葉も続けた。小泉自民党との違いを際立たせるしかない……。演説の最後をこう結んだ。「甘い話ばかりではありません。世の中に手品はありません」
〈勝敗ライン〉 衆院の議席数は480。勝敗ラインの過半数は241議席となる。8日の解散時の勢力分野は、自民党249▽民主党・無所属クラブ176▽公明党34▽共産党9▽社民党6▽無所属3▽欠員3。
自民党は郵政民営化法案に反対票を投じた37人は公認しないことを決定した。