(24日 陸上・男子マラソン)
ワンジルが「ロケットスタート」で飛び出した。「作戦は最初からプッシュ、プッシュ。自分はラストスパートがないから」。25キロで世界記録の通過タイムを上回る。すぐに07年世界王者のキベト(ケニア)がレースをやめた。直後、参加選手中自己ベストがトップのレル(ケニア)を振り切った。「ライバルはレルだった」。ハイペース作戦が的中した。
記録より名誉がかかる五輪。ペースメーカーはいない。通常なら牽制(けんせい)しあい、低調な記録で勝負がつく。過去の五輪で優勝者が2時間10分を切ったのは76年モントリオールと84年ロサンゼルスの2大会だけ。いずれも2時間9分台だった。
同郷の先輩で日本の実業団で力をつけたワイナイナにあこがれて、15歳で仙台育英高に陸上留学した。ワイナイナは96年アトランタで銅、00年シドニー銀の二つのメダルをケニアにもたらした。88年ソウルではエスビー食品所属のワキウリが銀をとっていた。手が届きそうで届かなかったマラソンの金メダルは、長距離王国ケニアの悲願だった。
36キロからのスパートで独走になった。鳥の巣の大歓声には笑顔で手を振った。「歴史が作れた。きっとケニアではすごい騒ぎになる。まだ、3回目のマラソンなのに金メダルがとれて気持ちいい」
マラソンは4月のロンドンでレルに敗れた2位が1度で、3戦2勝。すべて2時間7分を切った。ワイナイナが同じ飛行機に乗って付き添ってくれた初来日の日から6年。見続けていた夢がかなった。(原田亜紀夫)