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大型スクリーンの3位の位置に「JAPAN」の文字がオレンジ色に光った。その瞬間、アンカー朝原宣治が高々とバトンを放りあげた。北京五輪で、日本が陸上トラック種目で80年ぶりにメダルを獲得した。
冒険するより、地味だが堅実な方法で。予選で米国などの実力国に失格や棄権が相次ぐ中、そんなバトンパスが男子400メートルリレーで日本に銅メダルをもたらした。
21日に実施された男子400メートルリレー予選は大荒れだった。参加16チーム中6チームにバトンミスがあって失格か棄権に。英国、米国、ナイジェリアのアテネ五輪上位3チームなどが姿を消した。
世界の主流が上から下への腕の動きでバトンを渡すオーバーハンドパスのところ、日本はここ数年アンダーハンドパスにこだわってきた。地面の方向、下側に向けた次走者の手のひらに、前走者がバトンを下から上に動かして渡し込む。前走者と次走者がある程度接近しないと渡せないので距離が稼げないのが難点だが、確実性を重視した方法だ。
「世界の流れに逆らうこの方法でいいのかという批判もあったが、北京五輪まではこのアンダーハンドパスでいくことに決めていた」と日本陸連の苅部俊二・男子短距離部長。第1走者の塚原直貴は誇らしげに言った。「バトンを渡すゾーンに入った瞬間だけ、僕らの空間になるんです。周りの雰囲気なんて関係ない。自信? 絶対的ですね」
日本が5位になった昨年の世界選手権のデータがある。バトンの受け渡しをしなければならないゾーン(20メートル)の日本の所要タイムはパス3回で計5秒66。これは優勝した米国より0秒13、2位のジャマイカより0秒33速かった。それだけ日本のパスは巧みだった。
さらに上位の壁を破るために、アテネ五輪で第1走者をつとめた土江寛裕・男子短距離副部長がはじき出した計算があった。受け渡しゾーンの前後10メートルを加えた40メートルを3回それぞれ3秒75で通過できれば、ゴールタイムは日本記録(38秒03)を破る37秒85になるというものだ。
メンバーはこれを、“土江式皮算用”と呼んだ。このタイムを目指して、合宿でも繰り返しパスの練習をし、ビデオに撮影したものをチェックしてきた。
この日のタイムは日本歴代2位の38秒15だった。
個々の力の向上はもちろんのこと。それを結びつける1本のバトン。「日本のおはこ」がメダルを引き寄せた。(堀川貴弘)