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女子100メートルで優勝したフレーザー(ジャマイカ、右)=矢木隆晴撮影

9秒69の世界新記録で男子100メートルを制したボルト(ジャマイカ)。200メートルと合わせ2冠を達成した=岩崎央撮影


陸上短距離でジャマイカ旋風が吹き荒れている。男子のウサイン・ボルト(22)が100メートル、200メートルをともに驚異的な世界記録で制し、84年ロサンゼルス大会のルイス(米)以来の100メートル、200メートル2冠を達成。女子100メートルではメダルを独占した。強さの秘密はどこにあるのか。(忠鉢信一、堀川貴弘)
20日までに実施された短距離種目はジャマイカと米国の対抗戦の様相。04年アテネ五輪までにジャマイカが獲得した五輪金メダルは、陸上の短距離種目の7個。今大会ではすでに4個を取っている。92年バルセロナ五輪の男子100メートルを制したクリスティ(英)や96年アトランタ大会の同種目で勝ったベーリー(カナダ)はジャマイカ生まれ。88年ソウル五輪でドーピング違反によって金メダルを剥奪(はくだつ)されたジョンソン(カナダ)も同国出身だ。
北京五輪の旋風の背景には、練習環境が国内に整い、選手層が厚くなったことがある。これまで国外へ出ていた才能ある選手も、とどまるケースが増えてきた。
男子100メートルの前世界記録保持者のパウエルらを指導するMVPクラブのフランシス・コーチは「選手がジャマイカにとどまるケースは二つある。ウサインのように国や競技団体の支援を受けている場合と、アサファ(パウエル)のように若い頃はたいした選手じゃなくて選択の余地がなかった場合だ」。
かつて五輪を目指すには米国へ留学するしか道がなかった。社会人や学生が世界の一線級の大会を目指すクラブとしてはMVPがジャマイカの草分け。パウエルや女子100メートルで金メダルのシェリーアン・フレーザーが所属する。ボルトは国際陸上競技連盟が援助する施設で練習している。MVPクラブのジェームス会長は「米国の生活になじめずに大成できなかった例がたくさんあった。今は国内で選手が伸びる可能性が広がった」と話す。
ジャマイカで陸上は国技とも言える。1910年から「チャンプ」と呼ばれる高校の全国大会が始まり、学校対抗で競い合う。毎年3万人の観客が集まる人気の大会で、ボルトはここで才能を見いだされた。
「ジャマイカ人は遺伝的に短距離走に適している」。そんな説が昔から唱えられている。かつて奴隷貿易の中継地点だった。脱走して山間部に潜んだ元奴隷たちが蜂起した歴史を持つ。厳しい環境に耐えた強い体が受け継がれているという説だ。
ただ、英グラスゴー大学講師のピツィラディス博士は否定する。「遺伝よりも手本となる名選手がいることや、走ることが富を得る機会の一つであるという経済的な要因が大きいのでは」と話す。遺伝説は「自分たちは速い」という自信を支える柱として作用していると見られる。
短距離界では次々と、有力選手のドーピング違反が発覚している。これだけ速いと、ボルトにも薬物に関する質問が集中する。ボルトは「僕はクリーンだ」と繰り返している。