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陸上男子100メートル決勝を前に、レースに集中するカメラマン。白のレンズがキヤノン、黒がニコン=16日夜、北京の国家体育場、奥寺写す
世界のトップ選手が集う北京五輪。世界記録や選手の表情を刻むカメラの世界でも、頂上決戦が繰り広げられている。前回のアテネ五輪は白いレンズのキヤノンが圧倒したが、北京では黒主体のニコンが肉薄。実力を測る最高の舞台とされる陸上男子100メートル決勝では、「白」と「黒」が競り合った。
16日夜、9万人が息をのむ中、号砲が鳴った。北京の国家体育場(通称・鳥の巣)であった男子陸上100メートル決勝。8選手が飛び出した瞬間、カメラマン席から連続シャッター音が鳴り響いた。
ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒69の世界新で駆け抜けたゴール周辺に集まったカメラマンは約400人、大きな筒形の超望遠レンズはその倍以上ある。黒いカメラに白のレンズがキヤノン。カメラ、レンズともに黒いのがニコン。世界のスポーツ報道用を独占する日本の2社が技術を競う。
ざっと数えると、「黒」の4割強に対し、「白」が6割弱。「アテネは、真っ白だった。会場によっては、9割がキヤノンという競技会場もあった」。北京五輪でメディアサポートの陣頭指揮をとるニコンの後藤哲朗執行役員は、4年前を振り返る。
もともとは、この世界ではニコンが強かった。同社は59年、先がけてプロ用一眼レフカメラ「F」を発売。「東京五輪(64年)では、世界のカメラマンが手ぶらで来て、日本で買ったカメラを使って撮影した」という。
しかし、80年代末にオートフォーカス時代に入り、キヤノン「EOS(イオス)」が焦点を合わせる速度、超望遠レンズの質、量などで凌駕(りょうが)した。バルセロナ五輪(92年)でニコンを逆転し、「それ以降は、スポーツ写真の分野では常に半数以上が『白』だった」(キヤノン)。
ニコンが北京で互角の戦いをするようになったきっかけが、昨年11月発売のデジタル一眼レフの最上位機種「D3」だ。暗い場所でも明るく撮れるよう、「高感度」の機能を充実させた。
男子100メートル決勝を取材した中国国営新華社通信の黄敬文さんは「光の入りが圧倒的に良くなった。より高速シャッターが切れる」。五輪取材班65人のうち、数人がキヤノンから切り替え、今は7割強が「黒」という。フランスのAFP通信社も社としての機材調達先をニコンに変えた。
一方、「白」派は根強い。世界の3大通信社のうちAPとロイターは今も大半がキヤノンを使う。「妻と同じで、一つミスを犯したからといって取り換えたりしない。すぐにキヤノンも同様の機種を出すよ」(APのデニス氏)。
両社のレンズには互換性がなく、カメラを取り換えると膨大なお金がかかる。自分で機材を買う「自腹派」は切実で、「半年分の給料をはたいた手前、機材をコロコロ変えられない」(ジョルナル・ド・ブラジルのダニエルさん)。
ただ、企業にとっては「これはF1と同じ。最上位機種の勝敗が企業イメージを左右するだけに、負けられない」(ニコンの後藤氏)との事情もある。ソニーもプロ向け最上位機種を開発中とされるほか、韓国のサムスンも参入を狙っているといわれ、競争はこの先も続きそうだ。(奥寺淳)