マークの写真や図はクリックで拡大します
(14日、競泳男子200メートル平泳ぎ)
世界一のストリームライン(流線形)が、青い水を切り裂いていく。「最高に気持ちよく泳げた」
英スピード社製水着レーザー・レーサー(LR)は、体がまっすぐ伸びた時の泳速が従来水着より速くなる。ストローク数が誰よりも少ない北島の大きな泳ぎは、LRの特性を生かし切れる。
LRに使われた米航空宇宙局(NASA)の避抵抗理論と、北島が追い求めてきた避抵抗技術。二つの要素が融合し、2位リカード(豪)に1秒24の差をつける五輪新記録を樹立した。
水の抵抗だけではない。
2冠を達成した04年アテネ五輪後、北島は残り50メートルのタイムを伸ばすため泳ぐ量を増やした。大きな国際大会にも本来の半分程度の調整で臨み、泳ぎ込みを優先させてきた。
そこにタイムが飛躍的に伸びるLRが登場した。終盤、特に威力を発揮する。持久力の向上でも、北島の取り組みと最先端水着を生んだ科学が一つになった。
決して科学が似合うクールな男ではない。
つらいときは水中で叫ぶ。平井コーチに弱音を吐かなくても、厳しい練習を指示した紙は破り捨てたいと何度も思ってきた。
泳法分析のデータを取る時も、体調が整っていないことを理由にまともに泳いだことはほとんどない。「チーム平井」の参謀役、岩原文彦・日体大助教は言う。「科学者泣かせなんです」
それでも、理論通りの泳ぎを完成させた。4年に1度の大舞台で勝つためだけにやってきた。海外のライバルたちと競うたびに力が入り、失速した姿は消し去った。
「誰かと戦っているわけじゃない。自分のコースを泳ぐのだから」
孤高の王者が、自分の泳ぎを貫いた。(由利英明)