
400メートル障害の前日本記録保持者・吉田真希子(右)や二瓶秀子さん(中央)らが、子どもたちの練習メニューをつくる
福島市郊外の福島大学陸上競技場。練習拠点にする丹野麻美が女子400メートルの日本新記録を出した翌日、こんな会話が交わされていた。
「7の倍数分かるかな?」
「うん、学校で習った」
問いかけたのは、福島大陸上競技部の川本和久監督。地元の小中学生が会員になっている「福島大学トラッククラブ(TC)」の練習で、子どもたちと7メートルおきにハードルを並べようとしていた。
川本監督は、今春卒業した丹野のほか、走り幅跳びの池田久美子、400メートル障害の久保倉里美らを指導する。福島大生として教えた選手の持つ五輪種目の日本記録は五つ。今回初の五輪選手が誕生しようとしている。
ハードルを等間隔に並べようと悪戦苦闘する小学生の脇を、丹野らが走り抜ける。「最初は戸惑ったけど、今は普通の光景」とコーチの二瓶秀子さん。福島大学TCは、二瓶さんが同大大学院生として女子100メートルで日本新記録を出した01年に始まった。
川本監督の知人の中学教諭が、教え子2人を連れてきたのがきっかけだった。口コミで広まり、週末になると「もっと速くなりたい」と子どもが集まった。陸上競技部が強くなるにつれて会員が増え、現在は約70人だ。
川本監督は「エリート教育も考えた。でも、それは違うな、と」。走る楽しさを知ってもらえればいい。監督は、子供たちが大学生になった時に再会できることを願う。
「試合前は何を食べればいいの」。久保倉を質問攻めにした郡山市立郡山二中3年の渡辺悠太君は、学校ではパソコン部に所属して、平日は1人で走る。
北京五輪参加標準記録Bを突破した久保倉は「子供たちの貪欲(どんよく)さ、純粋さが刺激になる」と話す。
サッカーのようなジュニア期からの育成システムは、陸上ではまだ少ない。それがこの地で、着々と形づくられようとしている。(古田真梨子)