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北京便り 重松清

高級分譲住宅と郊外のゴミ山と

2008年04月27日

 北京五輪は、上海や天津、瀋陽など、北京以外の街でも競技がおこなわれる。いずれも大都市である。しかし、日本のように大都市のまわりにベッドタウンが連なっているわけではない。派手な看板が林立する市街地から郊外に出ると、街並みはぷつりと途切れ、風景の色彩は極端に減ってしまう。

 大連から瀋陽まで、列車で向かったときもそうだった。3月初旬の取材旅行である。車窓には赤茶けた冬枯れの大地が延々と広がっているのだが……ときどき、ハッと驚くほどの鮮やかな色が目に飛び込んでくる。

 ゴミの山である。

 村の空き地に、川原に、あるいは家のすぐ裏手に、小山のようにゴミがうずたかく積み上げられている。生ゴミ、資源ゴミ、可燃物、不燃物、いっさいの分別なし。人々の生活から吐き出された「いらないもの」がつくりだす混沌(こんとん)とした色合いは、衛生面や地球環境うんぬんの理屈を超えて、圧倒的な存在感を放っていたのである。

 到着した瀋陽の街は、かつて「奉天」と呼ばれていた人口730万人超の大都市――8月13日に、男子サッカーの1次リーグ・日本対オランダ戦がおこなわれる街である。日本からも数多くのサポーターが訪れるだろう。その行き帰り、空港と市街地との間に広がる風景をぜひ見ていただきたいと思う。

 いかにも「開拓」という言葉が似合う原野に、住宅展示場のような、いや、小ぶりのテーマパークと言ってもよさそうな住宅街が次々に現れる。新築マンションもあれば、瀟洒(しょうしゃ)な欧風一戸建てが並ぶ街区もある。いずれも、急増する富裕層をあてこんだ高級分譲住宅である。

 だが、道路を隔てた向かい側には、昔ながらの、地面にへばりついて肩を寄せ合うような古い住宅が並んでいる。そして、道ばたにはいくつもの色鮮やかなゴミの山……。まるで質感のまったく違う2種類の絵の具で塗られた絵を見せられているような風景なのだ。

 五輪を控えて、北京市当局はゴミの分別収集を本格的に始めている。瀋陽でも、ガラスの王冠をモチーフにしたと言われる五輪スタジアムを中心に、本番では美しい街並みが保たれるだろう。郊外のゴミの山も撤去されるかもしれない。しかし、国家の威信や躍進する経済力ではなく、庶民のたくましさは、むしろゴミの山のほうにひそんでいるのではないか。錆(さ)びたドラム缶を蹴(け)飛ばして遊んでいた子どもたちは、この夏、「マチで開かれる世界のお祭り」を、どんなふうに見るのだろう……。

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