郷里の広西チワン族自治区のプールで後輩に声をかける呉艶艶さん
00年、シドニー五輪を目前に控え中国競泳のエース呉艶艶は国家体育総局で、5月の中国選手権後のドーピング検査で筋肉増強剤が検出されたことを知らされ、詰問されていた。
当時21歳の呉は何が起きたのか分からず、ただ泣くばかりだった。「ずっと合宿中で外に出る機会もない。与えられた栄養剤を飲んだが、禁止薬物は入っていないとされていた。身に覚えがない」
呉は97年、女子200メートル個人メドレーで2分9秒72の世界新記録をマークした。「高地練習がうまくいった。レース中は禅の境地に達していた」。記録は今年3月まで約10年半破られなかった。
シドニー五輪も金メダル候補だった。しかしドーピング問題で代表から外され、中国水泳協会から4年間の出場停止処分を受けて引退した。
中国は90年代に大量のドーピング違反者を出し、信用が失墜した。「各省、自治区チームが激しい五輪代表争いで足を引っ張り合った結果」との見方があった。
北京五輪を前に、国家体育総局は「ドーピング違反者を出すくらいなら金メダルはいらない」と発言。今年に入って1回の違反で永久追放とする新たな規定を作るなど、処罰も厳しくした。しかし昨年8月の競技外検査で、06年アジア大会トライアスロン女子金メダリストの王虹霓が筋肉増強剤に陽性反応を示し、2年間の出場停止処分となるなど根絶できていない。
呉は今、地元の広西チワン族自治区体育総局で働く。後輩に「栓の開いた水は飲むな。他人からもらったものは食べるな」とアドバイスする。「でも自分にどうして陽性反応が出たのか分からないから、再発防止策は分からない」
関係者の心配はつきない。「国の意識は相当なもので、反ドーピング教育も徹底するようになった。だが、中国は広い。地方まで浸透するかどうか」(阿久津篤史)