皆さまへ 皆さま、今までずっと支えてくれてありがとう。全力で卓球をがんばります 福原愛
いつも一緒の湯媛媛(タン・ユワンユワン)コーチと福原愛(下)。手には「福」の文字飾り。中国語では「福」の字を倒すと「福が来る」という
広州での世界選手権団体戦で福原の活躍に喜ぶ母千代さん
福原一家は昨年11月、秋田県湯沢市の稲住温泉にいた。一家団欒(だんらん)の食卓には、少しぎこちなさも漂っていた。
両親と兄。親子4人の水入らず。ふだん卓球漬けの愛(19)は、お姉さん的存在でもある中国・遼寧省出身のコーチ、湯媛媛(タン・ユワンユワン)(25)と過ごす時間が長い。ラケットを持たずに家族そろって遠出するのは、愛が卓球を始めてから初めてだった。兄秀行(29)は「会話が弾むか心配したけど、愛が卓球を始める前のようで懐かしかった」。
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愛が初めて卓球のボールを打ったのは3歳9カ月だった。
「きっかけは、家族にかまってもらえない寂しさだったのかもしれません」。母千代(56)は回想する。
兄が中学生になり、卓球部に入った。自分をおぶって公園に遊びに連れていってくれた兄が、卓球に打ち込み始めた。それを両親が応援する。愛は「私もやる」と母にせがむようになった。
中学で卓球を始め、結婚後もしばらく地元のクラブで続けていた母が、コーチ役を買って出た。
8カ月後、ラリーは千本続くようになった。大会に出ると「天才卓球少女」として人気者になった。泣きながら卓球をする映像がテレビで流れ、「親が無理やりやらせているんじゃないか」といった批判が耳に入った。
千代は「同じ映像が繰り返し流れたので視聴者が誤解したんでしょう。愛がやめたいと言えば、すぐにやめるつもりでした。それに、愛が公式戦で泣いていたのは4歳の時だけなんです。5歳からは勝ち続けましたから」。
兄が卓球を始めたとき、父武彦(65)は「やるからには一番をめざせ。東北大会なら最低8強だ」と宣言した。中国の元女子チャンピオンをコーチに招き、自宅の3軒隣の空き家を借りて1階を卓球場にした。
筋力強化のために800グラムの中敷きを靴に入れて登下校させるなどのスパルタ教育。中国へ武者修行にも行かせた。中3のときに仙台市、宮城県の大会で優勝。東北大会3位、全国大会も4回戦まで勝ち進んだ。
「父は自分では卓球経験はないですけど、研究熱心で理論はすごい。僕は高校から寮に入ってしまいましたが、あのまま続けていれば強くなったかなと後悔もしている」。今、妹のマネジメントに追われる兄は、父の理論を信奉している。
英才教育は愛にも向いた。7歳のとき中国に初めて練習旅行に行き、その後もたびたび訪問した。年代別の全日本選手権で毎年優勝し、初出場した03年世界選手権でベスト8。15歳ではアテネ五輪で16強入り。今年1月には北京五輪代表に内定し、2月の世界ランキングは自己最高の9位に上がった。
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順風満帆に映るが、家族は11月で20歳になる多感な時期の娘が気になる。最近、愛はこんな話をしていた。
「(ゴルフの)宮里藍ちゃんに、どうやって息抜きしているのか聞いてみたい。私も15歳ぐらいまでは息抜きしなくても出来た。考えることもなかった」
生活のほとんどを占める卓球のほかに、進学した早大での勉強もある。イベントに駆り出されることも多い。忙しさに追われ、気持ちが揺れることがある。
さざ波を乗り越え、自立したアスリートに成長してほしい。家族はそう願う。
母は「19歳ならファッションなどに興味を持つのは当たり前。でも愛には立ち止まっている暇はないよって言ってます。何かをつかむには、ほかを犠牲にしないと」。
2年続けて8強入りを逃した1月の全日本選手権後、兄も妹を優しく諭した。「引退したとき、もっと頑張れば良かったという悔いは残さないでね」。自身の卓球人生に悔いがある。だから、愚直に打ち込む尊さを妹に伝えたい。
愛は、こうも言った。「(宮里のほか)横峯さくらちゃんにも聞いてみたい。お父さんとの関係が近そうだから」
愛の練習計画を考えるのは武彦だ。10代の女の子といえば男親と疎遠になりがちだが、武彦は気にしない。ときに命令調でしかる。娘にすれば、愛情に裏打ちされた助言でも素直に心に響かない。
愛は言う。「(レスリングの)浜口京子さんの場合、父のアニマルさんも選手だったじゃないですか。だから、選手の気持ちがわかるんだと思う。うちのお父さんは(人の重圧も知らないで)全日本選手権の前に『おまえにプレッシャーなんてない』なんて平気で言うんです」
両親は、愛の選手としてのピークは、23歳で迎える12年ロンドン五輪だと考えている。「うまく今の時期を乗り越えてくれれば」と願う。
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愛はいま、世界選手権団体戦で中国・広州にいる。かつてコート脇でコーチ役だった母は観客席にいる。「私は応援団。皆さんに差し入れをするおにぎり部隊です」
父は今回、来ていない。最近、心境の変化があった。
「愛には先回りして教えすぎたかもしれない。これからは受け身じゃなくて、愛が自分で人生を切り開かないと。もう愛は自分たちだけの娘ではない。応援して下さる多くの人のために、頑張って恩返しをしてほしい」。娘と少し距離を置こうかと、考え始めた。
家族について愛は気恥ずかしさがあるのか、あまり口にすることはない。「ずっと支えてくれてありがとう。全力で卓球をがんばります」。メッセージを、中国語でこう書いた。=敬称略