逆転サヨナラの夢をのせて舞い上がった打球が、京都外大西の外野手のグラブに収まった瞬間、宇部商の三塁側アルプス席が静まりかえった。そして、思い出したように沸き上がった拍手は、甲子園全体を巻き込む大きな渦になり、スタンドから「ありがとう」「ご苦労さん」と、選手たちをねぎらう声が飛んだ。
「よくがんばった。胸を張って帰ってきてほしい」。山口大会を含め、10試合を一人で投げ抜いた好永貴雄投手の母、浩子さん(44)は、涙ぐみながら話した。
試合は1回に先制され、4回にも2点を追加される苦しい展開。だが5回、山野光輝君の適時二塁打で2点を返すと、スタンドは一気に勢いを取り戻した。山野君の父、道生さん(49)は「選手たちはあとからのってくるタイプ。楽しみです」。
6回裏、井田和秀君の適時打などで3点を加えてついに逆転。「これが宇部商伝統の粘りだ」。66年に宇部商が選抜出場を果たした時に応援団長を務めた会社社長、戸田英明さん(57)=神奈川県厚木市=は、そう叫んで立ち上がり、自分に言い聞かせるように「大丈夫、大丈夫」とうなずいた。
その言葉通り、7回に再逆転された後も、すぐその裏に追いつく粘りを見せ、8回裏、上村拓矢君の犠飛で1点を勝ち越すと、スタンドの盛り上がりは最高潮に達した。
9回表、1点を守りきれば20年ぶりの決勝進出。だが、連戦の疲れからか制球力の落ちた好永君が連打を浴びるなどして4点を奪われた。スタンドからは誰からともなく「貴雄コール」が沸き上がった。
9回裏、最後の攻撃。1死一、二塁から高橋貴洋君の適時打で好永君がかえり2点差につめよると、スタンドの生徒たちは総立ちで声を枯らして応援し、涙を流しながら「ミラクル」を祈り続けた。が、その思いはわずかに届かなかった。
同校野球部OBで下宿先の福井県から駆けつけた大学生藤井義久さん(19)は「決してあきらめない宇部商野球を見せてくれた。いい思い出と感動をくれた後輩たちにありがとうと言いたい」と話した。