20人いる3年生で背番号をもらったのは5人だけ。その中で唯一甲子園のグラウンドに立ったのは久恵将之君だった。1、2年生が活躍するチームで、主将として、守りの要の捕手として、最後まで声を出して、攻めの姿勢を見せ続けた。
「自分たちの学年はふがいないんです」。3年生たちは繰り返した。レギュラーを取れないことではない。新チームをどうまとめていくか、みんなが一つになれない時期があったことだ。
主将になった久恵君に「引っ張っていかなければ」という気持ちが強いのは周囲も感じたが、久恵君は内に秘めた自分の信念を貫き、なかなか本音を言わない。力みもあった。
昨冬、今の3年生だけで何度も話し合った。時には夜11時を過ぎた。本音を言い続ける中で互いの性格がやっと分かり合い、帽子の裏に、ノートに、それぞれが「信頼」の2文字を書くようになっていた。久恵君の「3年生が引っ張るんじゃない、1、2年生が押し上げてくれる」と言い続ける姿勢が、チームを一つにした。
甲子園での初戦。主戦の細川君の球が上ずっているのを感じた。何度もマウンドに足を運び、「とにかく攻めてこい」と伝えた。両手を下に抑える動作を続け、低めを意識させた。守備陣にもこまめに指示を出し、後輩たちが守りやすい雰囲気を作った。
「一人ひとりにアドバイスしてくれたお陰でここまで来られた」「もっと野球を一緒にしたかった」と感謝や悔しさを見せる2年生たちの横で、久恵君は「来年はもっと強くなる。期待している。2年生には『よく頑張ってくれた』と言いたい」と話した。
「久恵は3年生の代表。思い切りやって欲しい」とスタンドで見守った3年生と、「3年生が声を出して盛り上げてくれた」と折りに触れ仲間をねぎらった久恵君。「たくさんの応援の中で野球ができて、甲子園は楽しかった」。久恵君は最後に笑顔を見せた。