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記録が語る大会史

[記録:1試合最多盗塁13]

甲子園を全力疾走、「土佐旋風」巻き起こす

   土佐(第35回大会、1953年)

写真

土佐は惜しくも松山商に敗れ、準優勝に終わった

高校野球といえば、グラウンドを駆け抜ける選手たちの姿を思い浮かべる。攻守交代時の全力疾走を最初に甲子園で見せたのが、第35回大会の土佐(高知)だ。

 今でこそ「野球王国」の名をほしいままにしている高知だが、戦前は長く不毛の時代が続いた。夏の大会で初めて代表となったのは戦後の46年の城東中(現追手前)。それから7年後、南四国大会を勝ち抜いて初出場を果たした土佐が甲子園に旋風を巻き起こした。

 創部4年目の土佐の前評判は高くはなかった。高知、南四国大会のチーム打率は2割を満たず、小柄なエース山本をバックが盛り立てる典型的な守りのチームと評されていた。

 2回戦から出場した土佐は、金沢泉丘(石川)と対戦した。金沢泉丘も1回戦で八日市(滋賀)に4―1と快勝しており、決して弱い相手ではなかった。しかし、土佐は相手バッテリーのスキをついて走りまくった。走者が出ては先の塁へ走って好機を広げ、4回までに14長短打を浴びせて12点。結局、13盗塁の大会新記録を打ちたてて15―3と大勝した。

 これで勢いに乗った土佐は、続く準々決勝で強豪の浪華商(大阪)を山本が3―0と完封。さらに準決勝では優勝候補と目されていた中京商(愛知)も6―0と下し、見事決勝戦にコマを進めた。

 決勝の相手は大会屈指の右腕、空谷を擁する松山商(愛媛)。奇しくも四国勢同士の対決となったが、もちろん戦前の予想は「松山商が圧倒的優位」だった。

 ところが、試合は予想通りにはならなかった。1回、土佐は、相手の空谷が3四球といきなり制球を乱したところを逃さず、無死満塁から4番永野の中犠飛と5番山本のスクイズで2点を先にもぎとったのだ。

 その後、土佐・山本は毎回のように走者を出しながらも味方の好守に助けられ、得点を許さない。8回、松山商に1点を返されたが、1点リードしたまま最終の9回を迎えた。

 山本は簡単に2死を取った。あと1人。だが、ここからドラマが生まれた。

 1、2番に連打されて一、二塁。次打者空谷に対し、カウント2―2からの5球目だった。外角低めのカーブを空谷がファウルチップ。その球を捕手の永野が取りそこなったのだ。後に高校野球の審判として活躍した永野は「『優勝』という言葉が頭に浮かんでしまい、取りそこねてしまった」と述懐する。

 仕切り直しとなり、2―3となった7球目。センターへフラフラと高く舞い上がった打球は、折からの逆風に押し戻されて手前に落ちた。

 これで延長へ。結局13回、松山商に二死一塁から左中間二塁打を打たれて決勝点を奪われ、土佐は涙をのんだ。

 土佐の選手たちは、初戦から試合前に必ず甲子園の土をポケットに入れ、「負けてもともとだから一生懸命にプレーしよう」と誓ったという。これが攻守交代時の全力疾走として表れ、甲子園のファンを魅了した。あくる日の新聞にはこう書かれていた。「今年は優勝校が2校出てめでたい。一つは優勝旗を持つチームと、もう一つは持たない学校だ」と。


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