第87回全国高校野球選手権大会(日本高野連、朝日新聞社主催)に出場した滋賀代表の近江は7日、神奈川代表の桐光学園と戦い、追いつ追われつの激戦の末、8―9であと一歩のところで勝利を逃した。スクールカラーのブルー一色に染まった一塁側アルプススタンドは最後まで勝利を信じ、沸き立った。
■母への思い、適時打生んだ
「母さんに恩返しする」。1回表2死満塁、堀晶太(2年)は、母への思いを胸に、3球目の直球を思い切り打ち返した。白球は快音を残して左翼へ飛び、走者一掃の適時打となった。
スタンドからは、闘病中の母、澄子さん(36)が、活躍を見守った。昨年8月ごろ、澄子さんに重い疾患が見つかった。
秋に先発メンバーからはずされた。「野球を辞めたい」と澄子さんに電話で伝えると、澄子さんは「母さんも病気と闘ってる。あんたも頑張り」と励ました。
冬は毎日練習後、課題の守備練習を続けた。積雪の中でも球が通る場所だけは雪かきをしてノックを受けた。堀を支えたのは、「懸命の治療を続ける母を何としても甲子園へ連れていきたい」という気持ちだった。澄子さんには、この日、165センチの息子の背番号4がいつもより一段と大きく見えた。
■友の言葉を胸に力投
8回裏2死満塁、迎えるのは3番打者。1打大量点を奪われる場面で、マウンド上の投手、松岡厚志(3年)は、ボールボーイの西大希(3年)の姿を一瞬、目の端でとらえた。
単調だった投球を修正するために500球を投げ込んだ春の練習。その球を受けてくれたのが西だった。西のミットから球がそれると、多賀監督はグラウンド1周を命じた。松岡はその時の西の言葉を忘れない。「気持ちだけで投げろ」
その時に身につけたプレートの幅いっぱいを利用する投球。低めに投げ込んだ4球目の球は捕手への邪飛となり、9回の反撃への流れを作った。
試合後、松岡は「西のおかげでここまでやれた。ありがとう」と西に感謝した。西は背番号のないユニホーム姿で「僕も頑張ってきてよかった」と白い歯を見せた。
■3年生と交わした約束
試合終了後、主将の佐山寛明(3年)は、一礼して帽子を取ると、つばの裏に書かれた3年生全員の名前に見入った。
滋賀大会初戦の前日、練習を終えた佐山にベンチ入りからもれた仲間らが渡した帽子だった。中央には「心は一つ 夢つかめ」と記されていた。選手権大会前には新しい帽子がメンバー全員に配られたが、佐山はこの古い帽子をかぶり続けた。
「3年生と交わした初戦突破の約束を果たせず申し訳ない」。そう思いながら、応援スタンド前へ走った佐山を、試合に出られなかった仲間が赤く腫らした目で出迎えた。「ありがとう、佐山」「ええ試合やったぞー」。(敬称略)