勝利まで、あとアウト三つ。
9回表。マウンド上で坂本良太君(3年)は、ほおを大きく膨らませて息を吐いた。
中学時代、坂本君と青森山田のエース柳田将利君は同じシニアチームに所属し、背番号「1」を争った仲だ。試合前夜には電話で話した。「お互い頑張ろうな」
試合は、1点を争う緊迫した展開。8回2死から柳田君の打球は左中間に抜けた。一塁ベースを過ぎた辺りでダッシュする柳田君の様子がおかしい。左足を引きずっている。治療のため臨時代走が出た。
三塁側ブルペンで投球練習をしていた坂本君はじっとその様子を見つめた。「大丈夫かな。最後まで、あいつに投げてほしい」
8回裏、柳田君はマウンドに戻ってきた。三者凡退に抑える見事なピッチング。最後の打者の空振り三振を見届けて、坂本君はゆっくりとマウンドに上がった。「次はおれの番だ」
坂本君は、宮城大会と甲子園の2試合を合わせた全6試合に抑えで登板し、いまだ失点ゼロだ。「大魔神」の異名も持つ。最後の打者を遊ゴロに打ち取って試合終了。満面の笑みがこぼれた。
整列するとき、坂本君と柳田君は抱き合って、互いの健闘をたたえた。
坂本君はこの春、ヘルニアのため約2カ月間まったく練習ができなかった。そんなとき、同じ東北地域で活躍する柳田君の姿は励みになった。
だからこそ、「柳田の分も頑張りたい」。「大魔神」がまた一つ、大きくなった。