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土岐商・丹羽力人君=長良川 |
8回裏、1死一、三塁。岐阜城北に2点をリードしているが、ここで点を入れられると「やばい」。ボールカウントは2―1。
スコアボードを振り返ったマウンドの丹羽力人君のほおに、さっと赤みが差した。この変化に、遊撃を守っていた大鋸正和君が気づいた。
「おれが守ってやるから」。大鋸君は、心の中で丹羽君に呼びかけた。
「おらあ!」。丹羽君が自分に気合を入れる声を上げながら、思いきり振りかぶってモーションに入る。鈍いバットの金属音。
打球は、勢いよく二遊間へ。大鋸君は、すかさず回り込んで打球を捕ると、そのまま二塁を踏み、すぐ一塁の加藤勇大君へ。併殺。
丹羽君が、肩で大きな息をしてベンチに戻ると、仲間たちが肩をたたいて迎えてくれた。その時、丹羽君は直感した。
「みんなとなら、勝てる」
プレッシャー、緊張、打たれたショック……。投手にとって、逃れることができないストレスがかかる時、丹羽君は顔が一瞬、真っ赤になる。だが、その変化をチームの仲間に悟られたくない。
「おれはチームの大黒柱。仲間を動揺させることはできない」
2年の春、内野手から投手に転向した。今春の県大会で「最速147キロの右腕」と注目されるようになった。突然、テレビや新聞に自分の名前が出るようになった。
「でも、何か違う」。名前が一人歩きしているように感じていた。1人で勝てるわけじゃない。
今大会、準々決勝で対戦した強打者ぞろいの市岐阜商には、初回から点を奪われた。準決勝の山県戦では、相手の素早い走塁でペースを乱された。1人ではとても切り抜けられなかった。
チームのみんなが、安打を放ち、守ってくれた。ピンチのたびに動揺を隠せず制球を乱す自分に落ち着きを取り戻すよう、みんなが声をかけてくれた。だから、決勝のマウンドに自分が立てた。
9回裏、2死二塁。カウント2―2。軽く息を吐いた。振りかぶる。打球は三塁、荒田郁也君の前へ。荒田君が素早く投げた球は、一塁の加藤勇大君のミットにぽん、と収まった。
「アウト!」。沸き上がる歓声とため息。甲子園への切符を手にした。
仲間たちが駆け寄ってくる。ベンチから、外野から、内野から。みんな笑顔、笑顔。その笑顔に丹羽君の笑顔がとけ込んだ。