「お前に任せた」
八幡南が1点を追う8回1死二塁。3番を打つ黒瀬亮太君に、松隈史郎監督がげきを飛ばした。黒瀬君はしっかりとバットのグリップを握りしめ、打席に向かった。
校舎が近い八幡南と八幡中央は、合同練習や練習試合を重ねてきた。中学時代から黒瀬君を知る八幡中央の選手も多く、捕手の近藤遼君は同じ中学出身、二塁手の古賀裕人君は同じ硬式チームで汗を流し合った仲だ。
パンチ力のある黒瀬君は合同練習でも目立ち、八幡中央の選手から最も警戒されていた。「手の内を知られてやりにくいな」。試合が決まり、そう思っていた。
ただ、勝算もあった。昔は苦手だった内角球が、練習を積んで得意になっていた。
この日、八幡中央のマウンドにはエースの原裕君が立った。両校の練習試合では一度も投げていない。「打てそうだ」。直球に狙いを絞った。3回は2死三塁で遊飛に倒れたが「打ち損じ」。タイミングは合っていた。6回は中越え二塁打を放った。
8回の打席。4球目を振り抜いたが、力無く二塁前に転がった。松隈監督は「ちょっと調子が悪かったかな。当てにいっていた」。黒瀬君は「打てそうで打てなかった」と、目を赤くして悔やんだ。
試合後、一礼の後に古賀君と握手を交わし、次の試合を託した。「今日みたいに投手中心で守ったら勝てる」。一緒に練習し競い合った仲間に、そうエールを送った。