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鮮烈な甲子園デビュー 鹿児島工、「御三家」にくさび

2008年04月25日

 全国高校野球選手権大会は今夏、90回の節目を迎える。60回大会から1県1代表制が定着して30年。大正、昭和、平成と連なる歴史の中、勢力図も変化しつつある。各地の現状を見て歩き、9校を紹介する。

写真06年夏、甲子園の公式練習でノックをする中迫俊明監督=兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で

 ◇狭いからこそチャレンジ

 鹿児島工は、一昨年夏の第88回選手権大会で初陣ながらベスト4に進出し、鮮烈な甲子園デビューを飾った。春季九州大会も準決勝まで勝ち上がり、今や地域を代表する強豪校だ。

 学校はJR鹿児島中央駅の北部に位置する。周囲は閑静な住宅街だ。グラウンドは、一塁側が60メートルほどしかない。外野はラグビー、サッカー部との共用で、満足に使えるのは内野部分だけ。室内練習場もなく、雨の日は校舎の廊下が練習場になる。他の公立校に比べても、施設、環境面では恵まれていない。

 入学式から約1週間、1年生約30人が名前と出身中学、守備位置などを自己紹介していた。恒例の対面式だ。中迫俊明監督(48)や先輩部員は笑みを浮かべ、拍手で歓迎する。ほのぼのムードが漂う。

 練習が始まると、空気が一変した。メニュー表に沿い、内外野に分かれ、整然と練習が進む。投手の牽制(けんせい)、バント、走塁練習……。

 フリー打撃が出来るのは週2回ほど。その分、一塁後方に設置した3カ所のケージで、マシンを相手に打ち込む。6カ所でのティー打撃も続く。しばらくすると、右中間のわずかなすき間で、外野ノックが始まった。限られた条件を克服しようと掲げる「チャレンジ精神と工夫」が、チーム全体を覆う。

 ◇「信じて徹底」逆境に勝つ

 「恵まれた環境で勝っても意味がない」。鹿児島工の中迫監督が生徒に、そして自らに言い聞かせる言葉だ。

 筑波大卒業時、高校の採用枠がなく、中学の教員を7年務めた。高校野球の指導者になったのは30歳。「甲子園という他の競技にはない大きな目標がある」。最初の錦江湾(きんこうわん)の2年目から指導法を模索しながら、休みを利用しては各地に勉強に出掛けていった。

 東北、近畿、東海、四国……。私学の強豪校から、分校で選抜出場した日高中津にも足を延ばした。その数は30校近い。トレーニング法、グラウンドの使い方、練習の流れなどをつぶさに見て、防球ネットの活用など参考になるものは採り入れた。新鮮な驚きもあったが、「それぞれのやり方がある。信じて徹底してやることが大切」と悟る。それが今の指導の骨格をなす。

 与えられた条件でいかに選手を伸ばすか。中迫野球のキーワードは「挑戦」と「徹底」。打撃練習で、右打者は右方向へ打つ意識が浸透している。必要な場面が絶対にある。「逆方向へ打てない選手はいらない」。一方、走塁は一定の約束事を決め、あとは各選手の判断を尊重する。積極的なミスには寛大だ。「褒めてやることが能力を伸ばす」。厳しさと優しさ。現代っ子気質の操縦法である。

 ◇逸材集結、変わる勢力図

 鹿児島県の高校球界は、長らく「御三家」が君臨してきた。かしょう(鹿児島商)、かじつ(鹿児島実)、かしょうこう(鹿児島商工=現・樟南)。夏の選手権大会では63回大会(81年)から87回大会まで、実に25年間にわたって3校が代表を独占。甲子園でも活躍し、鹿児島は強豪県の仲間入りを果たした。

 そこにくさびを打ち込んだ「中迫野球」を、樟南を率いて36年の枦山監督は「思い切りと手堅さ。采配が柔軟。他校の試合をよく見るし、研究熱心」と分析。そして「環境は悪いけど選手の質は一番」と、県内の有力選手が鹿児島工に流れる現状を指摘する。

 現エースの内村(3年)も中学時代から騒がれた逸材。その内村が中迫監督の指導を受けることを望んでいることを知り、他の選手も集まるといった好循環が続く。

 前任の川内(せんだい)で木佐貫(現巨人)を擁し、80回大会の決勝に進出。鹿児島実に敗れた。「おれは生涯甲子園に縁がない」と苦しんだ末につかんだ06年の初切符。「もう死んでもいい」と号泣した熱血漢は「何度でも行きたい場所」と春夏連続出場に意欲を見せる。御三家や神村学園なども、もちろん黙っていない。

 【鹿児島勢の選手権勝率】57勝56敗(全国23位)▽ここ30年間 43勝30敗(同9位)


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井上明(いのうえ・あきら)

 1951年、松山市生まれ。朝日新聞大阪本社スポーツグループ記者。松山商(愛媛)のエースとして、69年夏の第51回全国選手権大会決勝で三沢(青森)の太田幸司投手と延長18回をともに無失点で投げ合った。翌日の再試合で優勝。明治大でも投手、主将として活躍した。75年に朝日新聞入社。主として高校野球をはじめとしたスポーツ取材に携わる。


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