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タイトル

アマチュア野球の伝統

2007年04月24日

 前回紹介したイギリス人教師フレデリック・ストレンジのことばを、私が今ほど熱心に読んだことはない。そう、あの一連のプロ野球側からのアマチュア野球への不純な接触が、明るみに出たのがきっかけだ。

 ストレンジ先生は英国流スポーツマンシップを説き、アメリカ人教師ホーレス・ウィルソンが教えるベースボールにフェアネスの魂を吹き込んだ。時は明治初期、現在の東大のルーツ校での話しだ。

 どちらか一人が欠けていても、日本野球は今のようにはなっていなかったのはたしか。ストレンジ先生は日本で最初の運動競技の本「OUTDOOR GAMES」(アウトドア・ゲームズ=戸外遊戯)を丸善書店から出したりもした。定価は二十五銭。これはのちに下村泰大の編で「西洋戸外遊戯法」とされて、さらに多くの人の読まれるところとなった。この中で、ベースボールは「打球おにごっこ」として紹介されている。

 当時、ストレンジから直接教えを受けた武田千代三郎(秋田、山梨、山口、青森の知事や大阪高商校長などを歴任)が記録するところ、スポーツの目的が先生から明確に告げられている。

 「運動は人の獣力のみを練るを目的とはせず、吾人の知恵を磨かんが為なり。運動は手段にして目的に非ず、吾人の体躯を練るは、病を防ぎ、寿を保たんがためのみに非ず、期するところはこれ以上にあり。運動場に於ける訓育の、遥に教室内における強化に勝るものあればなり」

 運動行事に関してストレンジ先生が作った規則は、いってみれば日本ではじめてのスポーツ・ルール。そのいくつかを前回に書いたが、まだまだ貴重なものがほかにもあった。現在のことばになおして書いてみると、こんな内容だ。

 「賞品は記念品のみにせよ」

 「克己、節制、制欲、忍耐、勇敢、沈着、敏活、機知縦横、明快にして気宇壮大。これらの気質特性こそ、天がスポーツマンに与える最高の賞品ではないか」

 「勝負の結果はどうあろうと、威容を正しくして品格を重んじ、巷の売技の徒と同一視されることのないように」―――との注意も忘れなかった。

 「巷の売技の徒」とは、いまでいえばプロの世界の人たちのこと。もちろん、当時はまだプロ野球はなかったが、ショー的なプロはさまざまにあったのだろう。

 今回、アマチュア野球の世界にも、ビジネスの論理オンリーのプロからの強風が吹き荒れて、とんでもないことになったが、泉下のストレンジ先生、この騒ぎをどう見ておられることか。


佐山和夫(さやま・かずお)

 1936年和歌山県生まれ。ノンフィクション作家。慶応大文学部卒。日本ペンクラブ、アメリカ野球学会、スポーツ文学会会員。84年潮ノンフィクション賞、93年ミズノ・スポーツライター賞など受賞。メジャー・リーグや黒人リーグなどのアメリカ野球や日米野球史に関する著書・訳書多数。近著は「松井秀喜の『大リーグ革命』」(2003年講談社)「野球とシェイクスピアと」(2006年論創社)など。
>>主な著作


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