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甲子園だより

著者紹介

神田憲行

(かんだ・のりゆき)

1963年、大阪生まれ、ノンフィクション・ライター。大会終了後に発売される完全保存版「2006甲子園Heroes(ヒーローズ)」(朝日新聞社刊)の取材のため、 期間中は甲子園通いの日々を過ごす。甲子園取材歴は10年を越える。送りバントよりヒットエンドラン派。守備はショートの動きを見るのが好き。著書に『横浜vsPL学園』(共著、朝日文庫)、『97敗、黒字。』(朝日新聞社刊)など。

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開会式に想う  08月07日

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 ある年の夏の甲子園、私の友人が監督を勤める学校が出場を果たした。春夏通じて学校だけでなく、彼自身も初めての甲子園だった。取材を通じて彼と親しくなっていた私は、自分のことのように初出場に感激した。

 開会式当日、友人はチームを連れて甲子園「一番乗り」を果たした。嬉しくて嬉しくて、でも早く来すぎて球場内に入れず、選手たちは外で「体育座り」をして時間が来るのを待ったそうだ。

 開会式は、その日に試合をする監督さん以外、みなさん私服でスタンドから自分たちのチームの行進を見守ることになっている。

「スタンドから見るから、携帯に電話かけてくるな。ひとりにさせてくれ」

 知人は私にそう言った。

「たぶん行進しているところみたら、泣くから」

 そして付け加えた。

「いや、泣きたいから」

 彼は存分に泣いたそうだ。スタンドから苦労させられた自分の選手たちが立派に行進しているのを見て。5年間の指揮を振り返って。不遇の時代を思って。

 試合は完敗だった。10安打も打ったのに一点も取れなかった。終わるまで試合時間は2時間もかからなかった。5年間の指揮はあっという間に終わった。

「あーあ。一番大事な場所で、最低の試合をしちゃったよ」

 その日の夜、レストランで彼は私が渡した公式スコアを眺めながら声を落とした。

 そのときは黙ってしまったが、今なら私はこう言うだろう。

 甲子園に最低の試合などありません。エラーを10個しようが、30点取られようが、コールドゲームがない甲子園は、9回まで誰もゲームを止めることが出来ないのだから。どんな試合をしようが、選手はその試合のゲームセットの瞬間まで、甲子園の「主役」なのです。だから結果を恥ずべきゲームなど、甲子園に存在しないのです。

 いやいや、そんなこと私が言わなくても彼はわかっていたと思う。

 試合に負けた翌日、甲子園の外のお土産売り場に彼とチームがいた。

「これからUSJに連れて行くんだ」

「でも今日、帰るんじゃなかったですか」

 ああ、と友人は笑った。

「『負けたチームは出来るだけ大阪見物して帰るように言われてます』って、学校に適当なこと言った。あれだけ頑張ったんだから、それぐらいのご褒美はこいつらにあげてもいいだろ」

 そしてまた、ニヤニヤしながら付け加えた。

「俺は野球教えるのは下手だったかもしれないけれど、口は上手いからな」

 そういって、私にチーム全員のサインが入ったボールをくれた。ボールを持つと、サインの分だけ重いように感じた。

 友人はその年の夏で、高校野球の監督を辞めた。

 そのボールは今も私の机の上にある。

 ※写真は「鳴子」をもって応援する高知商のアルプススタンド(写真と本文は関係ありません)

読者の声

 「始球式」感動しました。ラジオで知っていただけにどうしても見たいと思いテレビに釘付けでした。芸能人や有名人ではなく、同じ甲子園を目指していて夢は叶わなかったものの「高齢者の人命救助」という尊い行いから甲子園の土が踏めた4人。非人道的な暗いニュースばかりが飛び交う中で、感動で今こうしてキーをたたいていても涙が止まりません。ドンドン話題として取り上げて頂きたいものです。そして、これからもこういった「英雄」的高校生を始球式などの表舞台に採用してあけで頂きたいものです。京都の4人の高校生、感動をありがとう!!!!

夢と元気と笑顔の薬剤師さん(48)男性 千葉県

 毎年この「甲子園だより」を楽しみにしています。正直に言うと、カンダさんの(文章の)ファンです!今年もよろしくお願いします!

メガネさん(28)女性 東京都

 夏の全国大会。私は好きではない。小さいころの夏休み。父は新聞記者として夏の大会に詰めていた。家にいない。友達は家族で夏休み。相手がいない私はひとりで壁にボールをあてた。球は速く、速く、何回も。妹なんか相手にならない。まったくつまらない大会期間中。決勝が終わると父は帰ってくる。早くなった僕の球を受けてくれる。泥んこになってくれる。僕と父の大会が始まるのだ!大会決勝が終わると楽しかった。父の仕事中の厳しい顔はない。まるで球児だ。いまでも決勝が終わるたびに、野球がしたくなる。今日は父の3回目の命日。野(8月)球(9日)が大好きだった父にふさわしい命日。さて、壁あてするか。

こまささん(42)男性 海外

 開会式に想うを読ませていただき、涙がぼろぼろでてしまいました。私は、地元の中学の仲間がそのまま高校球児となった公立高校の野球部が好きで応援しています。昨今、野球留学も多くなりセミプロ的な野球部に何か違和感があります。郷土を代表し地元の人々が応援するといった野球部が少しでも多く活躍して、高校野球ファンを楽しませて欲しいと思います。甲子園だよりをこれまで知らなかったことを後悔していますが、これからは楽しみに読ませていただきます。

上田万里子さん(47)女性 東京都


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