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〈球児たちの夢1〉 白球も菓子作りも 泡立てに効くスナップ2006年07月11日 「生クリームを泡立てるときは、空気を含ませるようにするといいんですよ」
全国高校野球選手権静岡大会の開幕まで2週間を切った昼休み。周囲を山に囲まれた佐久間高校(浜松市)の調理室。 3年の野球部員、梅里昌弥君(マサヤ)は、前かがみになって左手でボウルを少し斜めにして持つと、右手の泡立て器でリズム良く混ぜていく。鮮やかな手つきだ。授業で作った黒いエプロンが似合う。 182センチ、75キロ。精悍(せいかん)な顔立ち。大きな声はグラウンドでもよく響く。ポジションは一塁。 そんなマサヤの夢は、パティシエになることだ。パティシエとは、洋菓子職人のこと。校内でも有名な技を、頼んで披露してもらった。 もともと料理は好きだった。中学3年のとき、テレビで見た料理番組で、最後に出てきたチョコレート菓子に魅せられた。宝石のように輝き、芸術品のよう。見ているだけで、みんなの顔がほころぶ。食べた瞬間の幸せそうな表情――。 「すごい。こんなものがあるのか」。即座に、パティシエになろうと決めた。 姉の菓子作りの道具が自宅にあった。試行錯誤を重ねて身につけた。台所に立てるのは、野球の練習が終わってから。午後10時すぎに始め、未明に及ぶこともある。 クッキーなどの焼き菓子を、よく作る。「1人で食べてもつまらない」から次の日に学校に持っていき、みんなに食べてもらう。野球部の花見のときは、どら焼き風の菓子を振る舞った。評判は上々だ。 さて、野球。 体形をスリムにするよう母親に勧められ、小学4年から始めた。飛びぬけてうまくはないけれど、好きだから高校でも野球部に入った。 野球も菓子も、どちらも大事。それに、マサヤの中で二つはしっかりつながっている。 材料を混ぜるときの手首の強さは、野球の練習のたまものだ。練習がきつければ「冷たいレアチーズケーキが食べたいな」と考える。つらい気持ちが少し紛れる。 「打撃はそこそこだが、守備が下手」と自己評価する。どうしてもテンポ一つ、動きが遅れる。監督にアドバイスをもらいながら努力を重ねてみたが、「トレーニングはうまくなったけれど、守備は上達しなかったんです」。 この夏、背番号は10。「代打で出て、ここぞというときに打てたら」 部員に「代打でいいのかよ」と言われることもある。だけど、それがチームのために自分の良さを生かせる方法だと思っている。 大会が終われば、夏休みは菓子作りの勉強だ。そして、菓子の専門学校を目指す。 ◇ 佐久間高校 佐久間ダムの建設で人口が増えたため、57年に旧佐久間町など4町の組合立として開校した。今年が創立50年目にあたる。現在は県立で、全校生徒189人。約9割が旧佐久間町と旧水窪町の3中学校から進学する。 野球部は開校と同時にできた。今の部員は24人(うちマネジャー3人)。63年の第45回静岡大会では準々決勝に進出。74年の第56回大会では、前年に全国大会で準優勝した静岡を1回戦で破った。OB会によると、63年の後は夏の大会で2勝しておらず、「夏2勝」が悲願だ。 ◇
夢は野球だけじゃない。でも、今は野球に賭ける。強いチームではなくたって……。愛知、長野両県境に近い佐久間高校。山あいの素朴なまちの野球部に、球児たちの「夢」を追う。(磯崎こず恵)
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