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〈オレの魔球1〉 気合の緩球「どりゃー」

2006年06月27日

 「どりゃー!」

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「どりゃー!」。投球練習中に叫ぶ。チームメートは「他の言葉でも叫べよ」=大井町の立花学園グラウンドで

 立花学園の野田信二郎君(3年)は叫びながらボールを投げた。気合の入った声とは裏腹に球はふわっと緩い放物線を描いた。バットは空を切りミットへ吸い込まれた。

 3月。後の春季関東大会に出場する甲府工(山梨)と練習試合で対戦した。1死満塁。打席は甲府工の5番打者。ピンチだ。しかし、野田君は焦らなかった。結果は空振り三振。魔球「ライアーボール」が決まった瞬間だった。次打者も内野ゴロに抑えた。勝負どころで、強打者にこそ効く。試合は敗れたが、手応えはつかんだ。

 もともと野田君は4番手あたりの目立たない投手。速球は120キロも出ない。そんな野田君に転機が訪れたのは昨秋。ブルペンで投げていると、押部孝哉監督が後ろに立った。「魔球を教える。名はライアーボール」

 投げ方はいたって簡単。5本の指で球をわしづかみにする。そして、リリースの瞬間、指を開く。ボールは緩い緩い放物線を描いて、やっと捕手のミットに届く。80キロも出ていない。特に変化はしない。いわゆるチェンジアップだ。

 「投げるとき、いつもみたいに必ずほえろよ。いつもの『おりゃー!』より『どりゃー!』がいいな」と押部監督。ようするに速球を投げると見せかけて緩い球を投げ、タイミングを狂わせるのが狙いだった。「ライアー」が「うそつき」の意味だとは後から知った。

 はじめは嫌だった。速球派にあこがれていたし、叫んで遅い球を投げるのは少し気恥ずかしい。打たれたら、それこそ屈辱的だ。

 でも……。身長174センチ。投手としては小柄だ。2年の秋まで、走り込んだりウエートトレーニングに取り組んだりしたが、球速は伸びなかった。正直、軟投派の投球を身につけなければ、とは思っていた。

 今春の選抜大会。テレビで愛知啓成(愛知)の水野貴義君(3年)が、120キロそこそこの速球でPL学園(大阪)を1失点に抑えたのを見た。「ボールが遅くても緩急をつければ強豪だって抑えられる」。確信した。

 実際、きちんと低めに投げられるようになると、腕の振りが速球と同じなので、打者が戸惑った。捕手の音部豊史君(2年)も勝負どころで要求するようになった。

 最近は愛着がわいてきた。グラウンド整備をさぼったとき、笑ってごまかしてしまう自分とライアーボールが重なる。

 普段の野田君は、投げるときと違って寡黙だ。しかし、ある意味、チームのムードメーカーだ。

 栢沼秀朗君(3年)は話す。「彼が登板すると、どんなに沈んだ場面でもみんな笑顔になる。みんな『どりゃー!』を期待してるんです」

 いつのころからか、立花学園は試合に勝って母校のグラウンドに戻ってくると、輪になって勝利のおたけびをあげるようになった。中心にいるのはいつも野田君だ。そして息を合わせてみんなで叫ぶ。「明日もがんばろうぜ! 行くぞ! 1、2、3、どりゃー!」

 「高校野球もいよいよ変化球全盛の時代に入った」。春の選抜高校野球大会で優勝した横浜の渡辺元智監督は期間中、そうもらした。力勝負が見られないという一抹の寂しさがある一方、才能が大きく左右する速球と違い、変化球は努力と工夫次第でいろんな選手が身につけられる。身の丈に合わせて夏に挑む、そんな投手たちを追う。


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