2004参院選

比例区自民 迷彩模様




 「緊急」と書かれた1枚の文書が自民党の比例区候補に流れた。4日、安倍晋三幹事長名で「選挙区への支援活動の促進について」とある。

 「わが党の比例票は、選挙区での得票に応じて増加するのが基本的な集票構造」だと説明したうえで「選挙区への支援が比例票の増加、比例候補の当選に直結する」と太字で強調している。

 小泉首相退陣という最悪の展開を避けるため、党執行部は選挙区選挙で背水の陣を敷く。比例区候補を推す組織・団体に支援を指示するこの文書も、同じ危機感からだが、足元の反応は鈍い。文書を受け取った団体幹部は言う。「比例区で精いっぱいで、とても選挙区まで手が回らない」

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 2月中旬、JR神戸駅に近い湊川神社境内の楠公会館。結婚式にも使われる広めの一室に、自民党の有力支持団体で、特定郵便局長OBらでつくる「大樹」の兵庫県内の幹部が勢ぞろいした。1人の分会長の発言で会議の空気は一変した。

 「小泉さんの郵政民営化にはついていけない。民主党でいこうや。民営化反対なら共産党でも社民党でもいい」

 別の幹部も同調した。

 「自分たちの考えと違う方向に進んでいる。自民党費を払うのをやめよう」

 慌てて、自民党兵庫県大樹支部の工藤忠彦支部長がとりなした。

 「いまはついていけなくても、政権が代われば我々の意見も反映される。比例区だけでなく選挙区も自民党候補に投票しないとダメだ」

 自民党最大の集票マシンと言われた郵政一家・大樹。今回も比例区候補の元郵政審議官の長谷川憲正氏を推すが、「比例区は『長谷川』だが、選挙区は自民党に入れたくない。小泉さんには退陣してほしい」。近畿地方の特定郵便局長OBの間には、そんな本音が渦巻いている。

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 小泉自民党はいま「負のスパイラル」に陥りつつある。郵政・道路改革や公共事業削減などの「小泉改革」は支持団体や地方組織の動揺を呼ぶ。選挙区選挙への危機感から公明党の支援を頼むが、それがまた「比例区は公明党に」といった選挙戦を許し、比例区選挙の苦戦を生む……。

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自民党郵政議員の得票推移(参院選)
参院比例区の自民党郵政議員の名簿順位

 ●「反民営化」抑えて公認

 「緊急」通達が流れた4日の午後。大阪・心斎橋で、「改革」を間に挟んで立場を異にする自民党の比例区候補2人が、かち合った。

 小泉内閣の郵政民営化の旗振り役で経済財政・金融相の竹中平蔵氏。民営化反対論者で「抵抗勢力」を自任する荒井広幸前衆院議員の2人だ。

 先に来ていたのは荒井氏。自民党が政権公約に07年4月からの郵政民営化を掲げた昨秋の総選挙で民主党候補に敗れた。選挙戦で「民営化は愚の骨頂」と訴え、小泉首相から「うそつき」呼ばわりされたが、今回は党の方針に従う意向を示して比例区の公認を受けた。

 後からポロシャツ姿で現れた竹中氏は荒井氏に駆け寄り、「お互い頑張りましょう」。荒井氏は握手には応じたが、演説内容は違った。「年金で国民の皆さんは抵抗勢力になったのか。党内から抵抗勢力が一掃されたから、批判の受け皿がなくなって、民主党が支持を伸ばしている」

 各地の演説で荒井氏は年金改革反対の人に手をあげてもらう。手があがると「はい、あなたは立派な抵抗勢力です」。反応は悪くないと思う。「首相の手続き不足、説明不足を訴えてきたが、多国籍軍、年金問題でやっとわかってくれた」

 元郵政審議官の長谷川憲正氏も含め、比例区候補全体で郵政民営化への意見は「混在」状態だが、街頭演説での首相の決まり文句は「自民党は比例代表でも、いろいろな候補が出ている」。

 6日、JR京都駅前のホテル。長谷川氏の演説会場で郵政族の実力者だった自民党の野中広務元幹事長の声が響いた。

 「学者が突然、立候補した。長谷川さんを推す我々にとっては、いい標的ができた」。竹中氏への「宣戦布告」だ。

 続いて立った長谷川氏の批判の矛先は首相にも向かった。「民営化の提唱者が首相なので、政府の方針として決まってしまっている。だが、民営化でどうなるのか、説明されていない」

 迷彩模様が極まる自民党の比例区選挙。首相に近い森派幹部は「竹中さんが出たことで逆に郵政の団体がまとまった。いい意味での対抗心が出てきた」と期待するが、足元はそれほど楽観的ではない。

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 ●支部、先に公明候補推薦

 公明党大阪府本部の内部文書がある。

 今回の参院選で大阪選挙区から立候補している公明党公認候補を推薦した団体のリストだ。通し番号の18番目に「自民党大阪府大樹支部(大樹会)」が出てくる。

 大阪選挙区には自民党の公認候補もいる。それなのに、自民党の有力支持団体が公明党候補を推薦していた。

 大阪市の大樹の事務所には大阪6区選出の福島豊・公明党衆院議員が通い詰めていた。「郵政民営化は反対の方向で考える」。そんな言葉と熱心さに根負けし、4月に推薦状を出した。

 「どうなっているんだ」。自民党本部の幹部は文書を見て目を疑った。自民党大阪府連の幹部は党本部からの指摘を受け、「大樹は自民党の支部だ。自民候補に先んじて公明候補に推薦を出すのは問題ではないか」とクレームをつけたが、大樹側は「福島さんが熱心だったので」と取り合わなかった。小泉改革を押しとどめたいのに、小泉自民党を選挙で応援できるのか……。その矛盾が表に噴出した形だ。

 ただでさえ、郵政関係団体は今回の参院選に複雑な思いを抱いている。

 小泉旋風が吹いた01年参院選で、郵政官僚出身の高祖憲治氏は約47万9千票を得て当選。だが、元近畿郵政局長ら16人が公選法違反で逮捕され、高祖氏は議員辞職した。

 日本郵政公社は事件後、選挙違反が出ないよう全職員に「国家公務員法に照らして、あるいは社会的規範に対して、いささかも遺漏なきように行動せよ」と再三、警告を発してきた。

 参院選公示日の6月24日夕、竹中氏は出身地の和歌山市役所前で「たたかれてもたたかれても改革します」と訴えた。しかし、地元の大樹の幹部は「竹中さんは和歌山出身なのか。それも知らなかった」と冷ややかだ。

 大樹の特定局長OBは言う。「高祖事件で大けがをした。私も行政罰を受けた。いまの大樹は張り子の虎。集票マシンなんて今は昔の話だ」

(朝日新聞2004年7月8日朝刊紙面)

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 参院選の11日の投開票まであとわずか。決戦前夜の最前線をシリーズで追う。

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