――自民党は昨秋のマニフェスト(政権公約)で「日米同盟を基軸に国際協調を重視」を主張しました。イラクでの自衛隊の多国籍軍参加が参院選の大きな争点です。 日米同盟と国際協調が矛盾する場合にはどうするのかという問題が無視されている。米国が掲げたイラク攻撃の大義に納得していない国は多い。日本人の多くも間違った戦争だと思っている。 それでも「対米協調」を優先することが、日本の安全に本当にプラスになるのか。自衛隊のイラク派遣で、日本人もテロの直接の対象となったのは事実だ。内外の日本人の安全度が総合的にみて高まったとは思えない。 自衛隊が多国籍軍に参加するが、退くことは進むことよりむずかしい。撤退基準をこれまで以上に明示する必要がある。 サマワの自衛隊の活動を地元の人々が評価しているのは事実だろう。しかし、地元の人々が自力でやっていける態勢づくりが支援の本来の目的でなければならない。 他方、野党はそれぞれイラクからの自衛隊撤退を主張するが、イラク再建への貢献について具体案に乏しい。 ――日朝関係が動き始めましたが、北朝鮮政策はどう評価しますか。 北朝鮮との交渉では、金正日総書記と直接話すことが非常に重要だ。小泉首相の訪朝は準備不足だった感はぬぐえないが、日朝平壌宣言を確認し、国交正常化という目標実現への意欲を共有できたのは成功だった。 ただ日朝の国交を正常化する意義について、国民にもっと説明する必要がある。現在の危機を回避することが喫緊の課題であることは間違いない。しかし、与野党ともに歴史を清算する必要を自覚する力がないと、将来の東北アジアを構想する力も持ちえない。核問題をめぐる6者協議を常設機構にどう育てるか、ビジョンを示してほしい。 ――中国との領土・海洋権益問題など、どう解決すべきでしょうか。 中国は国家戦略として海洋進出をめざしており、領土・海洋権益問題は今後も続くだろう。中国内部の強硬派のやり方に対し、日本は法に従って対応しつつ、「平和的な台頭」を唱える今の主流派の姿勢を保つよう促していくべきだ。エネルギー問題については、両国はともに大消費国であり、協調することが双方の利益になる。80年代に渤海湾で両国が試みたように、共同開発の可能性を探るのが適切だろう。 自民党は東アジアとの連携強化をうたうが、具体例は日中韓外相会談の定期開催くらいだ。昨年末の東南アジア諸国連合首脳との東京会合では首相演説がなく、日本のメッセージを発する機会を逸した。さらに、アジアとの相互協力と信頼醸成を掲げても、対中政策を正面から取り上げた政党がない。対中関係がここまで重要になっているのに、大変奇異だ。 ――民主党は「自立・対等の日米関係」を掲げる一方で、政府が導入を決めたミサイル防衛も必要としています。 自立外交は当然の話だが、それを訴えねばならないのが日本の現状なのだろう。国連改革や安保理の常任理事国入りだが、日本がそれで何をするのかが書いていない。「国連待機部隊構想」も説明がほしい。 ミサイル防衛については政治的、軍事的効果と、経済的な負担の比較考量を国民が行えるようなデータを提示してほしい。民主党が、必要な予算は既存の防衛費の振り替えで対応すると明言しているのは評価できる。 =おわり
《解説》昨年秋の総選挙以降、半年間で日本の外交・安保政策は大きく動いた。イラクへ自衛隊が派遣され、ミサイル防衛の導入も閣議で決まった。小泉首相が再び訪朝し、イラクの自衛隊は米軍主導の多国籍軍に参加した。 国の針路がこれだけ急速に変わろうとしているのに、自民党のマニフェストや参院選公約は、抽象的なスローガンの羅列に終わっている印象がぬぐえない。 大きな論議を呼んできたイラクへの自衛隊派遣について、参院選公約では「イラクの人道復興支援のために、陸海空の自衛隊を派遣しました」と触れている程度だ。参院選で大きな争点になっている多国籍軍参加には一言も触れていない。 「着手率93%」を自称するマニフェストの実施状況も、外交・安全保障の分野では、何を基準にこの数字を算出したのか、国民にはわかりにくい。 野党はそろって、イラク問題では自衛隊の多国籍軍参加に反対し、撤退を主張している。民主党は「復興支援のあり方の見直し」を求めるが、現在のイラクの治安状況下でどう進めるのだろうか。一方で、日米地位協定の3年をめどの改定などと期限をつけているのは、与党との違いを際立たせる狙いだろう。 外交・安全保障の分野でも論議を深めていくためには、有権者が評価しやすい具体的なマニフェストづくりが必要だ。
(朝日新聞2004年7月1日朝刊紙面)
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