2004参院選

下:都市と地方 疲弊地域、再び国頼み




 空に向かって、巨大な鉄骨が組み上げられている。下町の風情が残る東京・日本橋浜町の一角。都市再生機構と地元住民が組んで来年夏、住居と事務所を兼ね備えた47階建ての超高層ビルを完成させる。

 そこから西に2.5キロ。大企業の本社が集まる大手町でも、官民一体の再開発が動き始めた。

 政府主導の「連鎖型都市再生事業」だ。

 起点は、6月に決まった国有地払い下げ。合同庁舎跡地(1.3ヘクタール)を同機構が整備し、そこに民間のビルが移る。移転後の跡地に別の企業が入る。これを繰り返し、築25年以上の約20のビルを次々と建て替える構想だ。経団連も名乗りをあげ、経済効果は1兆円以上と見込まれている。

 「丸ビルや六本木ヒルズは大盛況だ」。小泉首相は胸を張る。同機構が都内で進める再開発だけでも17カ所、約50ヘクタール。空前の再開発ラッシュの裏には、容積率制限撤廃や政府系金融機関による融資など、政府支援の大盤振る舞いがある。

●組合員が半減

 だが、活況の都市部とは全く違う風景が、地方には広がる。

 島根県浜田市の浜田漁港。「港は立派になったが、船がこんなに減っては……」。がらんとした桟橋で網を修理していた休業中の底引き網船の船員がつぶやいた。

 港の中央を615メートルの「マリン大橋」が沖の瀬戸ケ島に延びる。港を見下ろす高台には「世界こども美術館」のガラス張りの建物。バブル期に水産庁がぶち上げたマリノベーション構想などの「夢の結果」だ。

 90年当時から漁協の組合員は半減。水揚げ量は5分の1以下に落ちた。それでも、今なお漁港整備の工事は続く。

 牛尾昭市議(自民)は「もらいやすい国の補助金や交付税が手厚い事業に全部食いついた結果、生活に必要な基盤整備は後回しになった」と話す。下水道の整備率はほぼゼロ。小学校は木造危険校舎が4校残り、図書館も老朽化がひどい。それなのに、市の財政には250億円の借金が積み上がる。

 「旧産炭地振興」で国の事業や交付税がつぎ込まれてきた福岡県田川市。地元で「保護日」と呼ばれる月初めの金曜日の今月2日、市役所の窓口には朝から、生活保護費を受け取りに来た千数百人が並んだ。

 数少ない誘致企業が撤退して失職した若者や母子家庭も多い。4歳と2歳のこどもがいる女性(23)は内装請負業の夫(23)が腰を痛め、昨年10月から受給を始めた。保護率は98年から上がり続けている。

●財政力しだい

 景気回復の恩恵を受ける地域がある一方、取り残され、疲弊する地域をどうするのか。

 地域間の財政力格差を埋める役割の交付税や補助金制度は、中央省庁が権限維持へ自治体に事業を押し付け、地方も甘えを続ける中で、配分のゆがみがひどい。小泉政権の「三位一体改革」はそれをただし、地方が自立できる財政基盤を作るのが狙いのはずだ。

 しかし、現実に起きているのは、新たな地域格差と「公」の縮小だ。

 三位一体改革は、06年度までに、さらに約3兆円の補助金を地方の廃止提案に沿って削り、約2兆3000億円を税源移譲する。だが、地方の足並みは乱れている。

 7日に開かれた全国市長会の会合は、154市の市長らの間で激論が続いた。焦点は、補助金廃止の有力候補とされる2兆5000億円の義務教育国庫負担金だった。

 廃止の主張に対し、東京都武蔵野市の土屋正忠市長は「我々大都市の財源は増える。財政力がある所はいい教育をやり、財政力がない所はそこそこの教育になりかねない。それでいいのか」と問いかけた。

 02年度に地方に配られた義務教育国庫負担金の総額約3兆円を、都道府県別の人口で割って仮に配分する試算では、東京都は負担金より移譲額が846億円増える。一方、北海道は208億円減る。その差は1000億円以上だ。

 地方の不安を消そうと、総務省は「税源移譲で減る分は交付税で穴埋めする」と説いて回っている。そんな誘いの言葉に、自主財源の乏しい自治体ほど交付税や国の直轄事業に期待する「逆戻り」姿勢を強めている。

●「数字合わせ」

 「国と地方の役割分担をどう決め、都市と地方の格差是正はどこまでやるか、の議論がない。数字合わせに終始している改革ではどこまでいっても袋小路だ」と土居丈朗慶大助教授はいう。

 九州を出て、半年前から横浜市に住む男性(31)は職探しの日々だ。小さな商店街にある実家で雑貨店を手伝い、補助金を使ったカラー舗装や電柱の地中埋設で商店街の活性化を目指した。それでも客は減り続け、実家も廃業。地元で就職の口はなかった。

 「派遣でもいいから定職に就きたい。このまま社会から切り離されるのは怖い」と思う。政府による負担と受益の調整が機能せず、都市と地方の格差が広がる中で、新たな流民が都市に吸い寄せられている。

《キーワード》三位一体改革

 小泉政権が進める税財政改革。国から地方への補助金削減、税源移譲、地方交付税の見直しを一体的に進める。

 政府の04年度予算は、実質的な交付税を2兆9000億円、補助金を1兆円強削った。一方、地方への税源移譲分は約6500億円だけ。しかも人口比例で配分され、人口が少ない自治体の収入は大きく落ち込んだ。

(朝日新聞2004年7月11日朝刊紙面)


  • バックナンバー一覧



  • ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。
    asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。
    すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
    | 著作権 | リンク | プライバシー |
    Copyright Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission